京都フルーツ

1人目の客になれたお話

1人目の客になれたお話
涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人目の客になることです。

四条河原町の京都高島屋地下に
「いしい」がオープンすることは
数日前にチェックしていました。

地下にはお店がたくさんあるので、
どの位置にオープンするのか?は
下調べしておきました。

どの入口から入り、
どのルートを通れば
いちばん早く店舗に辿り着けるかを
確認しておきました。
いわゆる「ロケハン」ですね。
違うか。

前日までにそれを済ませていたので
今回はさほど難しくはないだろうと
思っていました。

高島屋なら以前の松屋のように
オープン時間を
早めることもないですし、
平日の午前10時、
大丸心斎橋店の
リニューアルじゃないんですから、
そんなに並ぶこともないでしょう。

それでも念のため、
9時35分には「いしい」から
一番近い地下の入口に到着。
私より二回りほど年上らしき
御婦人が既に待機していたので、
少し驚きましたが、
御婦人が入口右側にいたので
私は左側に並ぶことにしました。

数ある京都高島屋の地下のお店。
まさか、この御婦人が
私と同じ「いしい」を目当てに
並んでいることはないだろう。
もし、そうだとしても、
高島屋の入口が開いたところで
早歩きをすれば、
軽く置いていくことができるはず。

高卒1年目の松坂が
イチローから初対戦で
三振を奪ったときのことを
思い出しました。

私は余裕をもって
小林多喜二の『蟹工船』を
読み進めました。
一章読み進めて時計を見ると
9時50分。
振り向いてみると、
どういうわけか、
右側の御婦人の後ろにだけ、
長蛇の列ができあがっていました。

すわっ!
高島屋は
右側に並ぶシステムなのか!
しかし誰も私に
クレームを入れてくる気配はない。
ここで右側に並びなおしてしまうと
ひょっとすると、
この中の誰かが「いしい」を
狙っているかもしれない。

私は自分と
高島屋のシステムを信じて
左側を動かないでいました。

5分前。
小太りのおばあちゃんが
ツカツカと私のもとへ歩いてきて
尋ねてきました。

「パンはこっちに並んではるの?」

突然のことに驚いたのですが、
「いえ、知りませんけど」と
答えると不服そうに
踵を返していきました。

すると間もなく、
中から男性スタッフがやってきて
右側に並んでいる人たちに
整理券を配りはじめました。
見事なまでに私がいないかのように
右側の人たちにだけ、
整理券を配りました。

そうか!
あっちはその「パン」を買うために
並んでいたのか!
高島屋にそんな人気のベーカリーが
あることを知らなかった。

気になって、
「それ、何なんですか?」と
御婦人に尋ねてみると、
「昆布です」との答え。

昆布??

意外すぎる答えだったので
どういうことかさらに聞いてみると
「神宗」というお店の塩昆布を
求めて皆さん、
行列をなしているのでした。

そんな有名な塩昆布があることを
知らなかったのですが、
とにもかくにも、
この長蛇の列は
私の敵ではないことがわかり、
ホッとしていると、
午前10時きっかりに
京都高島屋がオープンしました。

足を踏み入れると、
目の前の花屋も奥の奥にあるお店も
全てのスタッフが、
キリッとした佇まいで、
30度ほどのお辞儀をして、
「いらっしゃいませ」と
出迎えてくれました。

気持ちいい。
気持ちがよすぎる。

普段コンビニの見習いの接客に
文句を言っているおっさんたちは
一度 ここに来てみれば、
どちらが当たり前なのかが
わかるはずです。
そうすれば コンビニの見習いに
文句を言うことなど、
できなくなるに違いありません。

一筋目を左折。
しばらく歩くと、
下見をしたときは
まだ店の体をなしていなかった
「いしい」が まるで昔から
そこにあったかのように
周囲に溶け込み、
オープンしていました。

完全に「ミートボール」の
イメージをもって行ったのですが、
京丹波に工場があり、
京都産の無添加の食材を使用した
食品を販売しておりました。

栗ご飯と黒豆を
試食させていただきつつ、
早く買い物まで済まさないと、
誰かに先を越されてしまうと
焦りながら、
「丹波しめじのまぜごはんの素」を
購入しました。

京都高島屋地下1階に
本日オープンした
「いしい」の1人目の客は私です。

それにしても、
小太りのおばあちゃんが求めたのは
どこのパンだったのでしょうか。




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