お願いフルーツ「その他」

1人目の客になれなかった話

1人目の客になれなかった話
涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人目の客になることです。

ステイホームといわれるなか、
なかなか趣味に走ることも
できずにおりましたが、
京都は緊急事態宣言も解除されたし
せっかくお店がオープンしてるのに
我々が外出しなければ、
お店の人たちはどうなるんだと
自分なりの正義感を携えて
四条寺町へ繰り出しました。

今日オープンしたのは
ABCマートグランドステージ。
ただのABCマートと
何が違うのかも知らない私ですが
ちょうど近頃、
あまりお金も使っていないから、
靴を買う余裕があるし、
靴を買いたい気持ちもある。

11時オープンですが、
少し出発が遅れ、
10時45分頃に到着すると、
店は半分シャッターが閉まっており
前に店員と思われる男性が
3人ほどおりました。

他は誰もおりません。
無事1人目の客に
なれそうな雰囲気。
しかし、私が店員だと思っていた
3人のうち1人は、
シャッターの前に
ずっと待機しています。

短髪でいい具合に日焼けして
少しピッタリとした白いTシャツに
紺のスリムパンツ。
素足に白黒の
市松模様のスニーカーは
あれはおそらくVANSのやつ。

このオシャレな兄ちゃんは
店員ではないらしい。
となると、
この兄ちゃんは
私より先に
到着していたことになる。
導線の決まっていないお店は
どこに並べばいいのかわからない。

私の後ろには
社会的距離を保ちながら、
すでに何組か並んでおり、
あっちの兄ちゃんの後ろにも
知り合いらしきお兄様が並び、
2人談笑しています。

しばらくすると、
男性2人組がやってきて、
片方の目力の強いほうが、
屈みながら
シャッターの奥の陳列を凝視し、
ぶつぶつぶつぶつ、
どうやら靴のメーカーなのか、
品番なのかをつぶやいています。

少し経つと、
今度は還暦近いと思われる
メガネのおじ様がやってきました。
いちばん最初に並んでいた
オシャレな兄ちゃんと旧知らしく、
お互いに挨拶し終えると、
メガネのおじ様が兄ちゃんに
「何狙っとるんや?」と
ニヤニヤしながら聞きました。

兄ちゃんは、
「狙ってるとかはないんですけど、
入ってフィーリングで」
なんて答えているではないですか。

私は、すっかり
怖くなってしまいました。
ここは私のいる場所ではない。
そう思うと、
あのオシャレな兄ちゃんも
後ろに並んでいる知り合いも
後から来たメガネのおじ様も
目力の強い兄ちゃんも、
みんながみんな、
私に対して、
「おまえ、何しに来とるんや?」
と脅しているような
気になってくるのです。

「靴知らんのやったら並ぶなや。」
という声が
聞こえてきてしまうのです。

知ってる人たちが
知ってる人同士で作り上げる
コミュニティは怖い。
私はいつも、
あのコミュニティに
排除されるのです。

変な汗が流れはじめ、
たまらなくなり、
私は並ぶのをやめました。

5月23日、
四条寺町あたりにオープンした
ABCマートグランドステージの
1人目の客にはなれませんでした。


TOP