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9月入学と『三四郎』

9月入学と『三四郎』
「9月入学」が
議論されるようになってから、
やたら夏目漱石の『三四郎』が
新聞のコラムで
取り上げられるようになりました。

主人公「三四郎」は、
帝国大学に入るため、
故郷・熊本から東京へと向かいます。
季節は夏。
三四郎は 汽車のなかで
知り合った女性と、
ふとしたことから
同じ宿の同じ部屋に
泊まることになるんですが、
三四郎は 女性に対して、
まったく免疫がありません。
部屋には蚊帳が一つだけ。
三四郎は その蚊帳に
女性と一緒に入るべきか否か、
悩みに悩みます。
結局 何事もなく、朝を迎えると、
三四郎は女性に
「あなたはよっぽど
度胸のない方ですね」と
言われてしまいます。
冒頭に出てくる
特に印象深いセリフです。

この、どう考えてもビッ◯な女、
冒頭に出てくるだけで、
物語とは全く関係ない
モブといってもいい存在です。
このエピソード、要る?
と思うんですが、
それでも全編読んだあとに、
印象に残ったセリフを
一つだけ挙げよと言われたら、
間違いなく、
「あなたはよっぽど
度胸のない方ですね」を選びます。
それほどまでに
強烈なインパクトを残しました。

話が逸れました。
大学に入学するために
上京する季節が
どうして夏なのか?が問題。

明治期の大学は西洋にならい、
9月が学年の始まりだったんです。
故に近頃、やたらと
新聞コラムが『三四郎』を
取り上げているわけです。
入学したての三四郎が
イチョウ並木を
眺める場面もあります。
大学の事務員さんとの会話では、
三四郎が「講義はいつから
始まりますか?」と聞くと、
「‪9月11日‬からです」と
答えるシーンもあります。
 
それがどうして4月入学に
切り替わったのか?といいますと、
まぁ、いろいろ事情は
あるみたいです。
国の会計年度に合わせたとか、
徴兵制との折り合いだとか、
いずれにせよ、
明治19年以降、
じょじょに4月入学に
切り替える学校が増えるなか、
三四郎が入学した帝国大学は
9月入学を維持していましたが、
ついに大正時代の1921年、
4月入学に移行しました。

『三四郎』が書かれたのは
明治41年のことですので、
帝国大学は まだ9月入学でした。

新聞のコラムをきっかけに
はじめて読んでみたわけですが、
冒頭の女性がやたらと
印象に残りつつ、
やはり、夏目漱石は、
ちょっとした心模様の変化とか、
機微とか、そういうのを
これ以上ないくらいに、
見事に描写するところが、
他の追随を許さんと思いました。

スラスラ読める読みやすい話ばかりが
名作ではありません。
じっくり読んで咀嚼しまくって
ようやく味を
噛み締めることができるような、
こういう小説をゆっくり時間をかけて
読む、ということこそが、
そういう時間を推奨されることこそが
文化的といえるのではなかろうか。

知らんけど。

なんにせよ、
夏目漱石『三四郎』は名作です。
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