京都フルーツ

1人目の客になれなかった話

1人目の客になれなかった話
涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人目の客になることです。

緊急事態宣言が解除されたとはいえ
オープン待ちのために
並ぶという行為は、
私1人ならともかく、
私の後ろに長蛇の列ができるなら
あまり褒められた趣味とは
いえないかもしれません。

しかし、
1人目であれば、
私に罪はないはずです。
私が並んでいることを知りながら
すぐ後ろに並ぶ輩にこそ、
距離を保つんだよ、と
言ってきかせてやりたい。

朝7時過ぎとはいえ、
すでに汗ばむ陽気です。
私は四条烏丸に自転車を停めて
河原町蛸薬師へと
歩いて向かっておりました。

長袖のシャツの下には
1人目の客Tシャツを着ております。

新京極を北へ。
この時間の新京極は
さすがに閑散としており、
この感じだと
1人目の客になるのも
余裕なのではあるまいか。

蛸薬師通り。
ここを曲がり、
河原町通りに面したところに
目当ての店があります。
すでに行列ができているのなら、
曲がったところで、
すでにその行列が見えるはずです。

曲がる。
行列は見えない。
勝ったか!
早足で近づいてみる。

しかし、
早合点が過ぎたようです。
どうやら入口は
蛸薬師側ではなく、
河原町側にあるようです。
そりゃ、そうだ。

河原町蛸薬師にオープンするなら
普通は河原町通り沿いに
入口を作るでしょう。
趣味に没頭すると、
そんな当たり前のことまで
見えなくなるものです。

しかし人の気配はない。
まだ朝7時過ぎとはいえ、
天下の河原町通りに
人の気配がない。
やはり私は勝ったのではないか。

おそらく入口前には
開店準備をしているスタッフが
1人目の客を
待ち構えているはずです。

そこへ私は
長袖のシャツを脱ぎ捨て、
颯爽と赤地の胸に
「1人目の客」と書かれたTシャツを
見せつける。

店員と目が合う。
私は微笑みかける。

すると店員の顔は
みるみるうちに
驚きの表情となり、
「あなたが1人目の客の人?」
私は黙って肯く。

長袖のシャツのボタンを
全て外し、
いざ河原町通りを右折しました。

そこには
京都銀行かと見まごうほどの
なが〜〜〜〜〜〜い行列が
できあがっておりました。

6月5日午前8時にオープンする
ドン・キホーテ京都四条河原町店の
1人目の客は私ではありません。
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