お願いフルーツ「その他」

その手に触れるまで

その手に触れるまで
カンヌ国際映画祭で
最高賞パルムドール二冠、
グランプリ、脚本賞、監督賞、
主演男優賞、主演女優賞を受賞。
というだけで素晴らしい作品だと
言ってしまってはいけません。

この作品を観たうえで、
上記の賞を総なめにさせた
カンヌ国際映画祭が流石であると
言うべきでしょう。

主人公は13歳の少年アメッド。
情緒がまだできあがっていない、
年齢よりも幼い印象を受けます。
しかし、その幼さにも
劣等感があるのでしょう。
自分はもう大人なんだから、
自分のことは自分で決められるよ!
という大人への反発もあり、
知らないものへの好奇心もあり、
過激なイスラム思想に
のめり込んでいきます。

信じたものが正しいはずなのに、
周りは目を覚ませなんてことを
言ってくるのですが、
そんなことを言われたら、
言われるだけ反発してしまうのが
思春期ってものじゃないか。

私はいま40歳ですが、
この少年に激しく
共感してしまいました。
それで客観的に自分を
見られたような気がします。
ああ、私は
このアメッドみたいなもんだから、
いつも周りの大人たちに、
妙な反発を覚えているんだ。

正直、この映画を観るにあたり、
「ちょっと難しそうな、
わかりにくそうな映画を
観てしまう俺」っていう、
そういうところに、
自尊心がくすぐられるという、
とてもつまらない動機で、
観ることを決めました。

こういう映画を
「面白かった」と紹介することで
「映画のことをわかってる俺」
みたいなのをアピールできる、
という下心もありました。

こういう気持ちが芽生えるのは、
基本的に常、センスを
周りにバカにされていることに
対する反動、反発なのでしょう。

私が面白いことをしても
否定するどころか、
見向きもしないくせに、
私と同じようなことを
別の面白いとされる人がやれば、
やっぱり違うね、面白いね!
などとおっしゃられるような
センスのよい皆様に対する
くそくらい精神が、
私をこの映画に近づけました。

不純な動機で観た映画でしたが、
結果、いまの私が
最も求めているものが
詰まっている映画でありました。

誰が観ても面白いとか、
少なくともいい大人がこの少年に
共感できるというようなことは
本来あまり無いのだと思いますが、
(これは別に俺レベルの感覚が
ないとこの映画の良さは
理解できないだろう、というような
次元の低い話を
しているのではない)
こういう映画が、
カンヌで最も評価されたというのは
私にとって現代が
決して悪い時代ではないという
証左にもなる気がして
よかったです。
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