京都フルーツ

1人目の客になれたようななれなかったような話

1人目の客になれたようななれなかったような話
涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人目の客になることです。

これを趣味にして以来、
先月は初めて一度も
1人目の客になれませんでした。
今月は巻き返しのSeptember。
Do You Remember?

本日9時、
釜座竹屋町にオープンする
パン屋さんの1人目の客になるべく
私は四条烏丸からチャリを走らせ、
8時過ぎにはお店に到着しました。

チャリというのは
自転車のことです。
もみあげではありません。

店の軒下にスペースがあるので
チャリを置かせてもらえるかな?
と淡い期待を抱いておりましたが
「丸太町駅の近くに
駐輪場があるのでそちらに
停めてください」とのことでした。

実は今朝5時に
下見をしておりまして、
そのときにも、
「ここに停めさせてもらえたら
いいんやけど、たぶんここは、
停めさせてもらえないタイプの
お店だろうな」と思っていたので
ダメージはありませんでした。

自転車を丸太町駅近くの
駐輪場に停めてくれと言った
男性スタッフは
柔和なスマイル顔で、
接客向きですが、
丁寧すぎるところが、
逆にうざがられるかもしれない。

まぁ、なんでもいいんです。
1人目の客にさえなれれば。

柔和なスマイル顔が
私に言いました。
「イートインとテイクアウトと
ご希望のほうに名前を
記入していただけますか。
書いていただいた順に
ご案内しますので」

そりゃあ、もちろん、
イートインでしょうよ!と思い、
記入する用紙を見てみますと、
イートインのほうには
一番上にカタカナで
「スギヤマ」と書いておりました。

見たこともないスギヤマが、
悪意を含む笑みを浮かべ、
私を嘲笑うのが見えました。

仕方なく私は
誰も記入していない
テイクアウトの1人目のところに
名前を記入して、
丸太町駅近くの駐輪場へと
向かいました。

丸太町駅近くの駐輪場、
150円也。
駐輪場から外へ出ると
雨が降っておりました。

再び店に辿り着いたのが
8時30分頃。
誰も並んでおりません。
スギヤマさえいなければ、
私はこのまま、
1人目の客になれたのに。

見たこともないスギヤマが、
悪意を含む笑みを浮かべ、
私を嘲笑うのが見えました。

しばらくすると、
健康的な感じの女性が
チャリでやってきて、
店の前にチャリを停めました。

柔和なスマイル顔が対応します。
どうやら、パンが大好きで、
オープン日をチェックしておられ、
今日を楽しみにされていたようです。
かなり押しの強い方だったので、
劣勢で「ありがとうございます」を
繰り返すのみだったスマイル顔が、
なんとか、
「自転車は置けないので、
丸太町駅近くの駐輪場に
停めてください」と
お願いしたのですが、
その女性は隣の
開いていないお店の前に
停めなおしただけでした。
思えば私は、
あの手の勇気を
ずいぶん前に失ってしまった。

柔和なスマイル顔は
それ以上、何も言えなくて、、夏。
綺麗な指してたんだね。
知らなかったよ。

オープン5分前。
どんどん人が
私の後ろに並んでいきます。
おそらくこの中に
まだ見ぬスギヤマがいるのだろうが
なんといっても、
1番に並んでいるのは私ですから、
オープンと同時に私が、
誰よりも先に店に入るはずです。

そこにイートインも
テイクアウトも差はないはずです。

オープン2分前、
しかし悲劇は起きました。
奥から出てきた女性スタッフが
大きな声を張り上げます。

「お待たせしました!
それではまず、
イートインでお待ちのお客様!
中へお入りくださいませ!!」

私の後ろに並んでいた
ほとんどの客が、
私を追い抜いていく。
どれがスギヤマかもわからない。

イートインが全員店に入り、
落ち着いたところで、
「お待たせしました。
それではワクイ様、
どうぞ、お入りください」

9月4日、金曜日午前9時、
釜座竹屋町にオープンした
「本日の」の1人目の
テイクアウトの客は私です。

見たこともないスギヤマが、
悪意を含む笑みを浮かべ、
私を嘲笑うのが見えました。
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