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読書の記録 小川洋子『密やかな結晶』

読書の記録 小川洋子『密やかな結晶』
イギリスの文学賞「ブッカー賞」の
翻訳部門「ブッカー国際賞」に
ノミネートされた小説です。

1994年に出た作品が、
他言語に翻訳され、
2020年に世界的に権威ある文学賞に
ノミネートされるってすごいですよね。

小川洋子さんもすごいですが、
ブッカー国際賞に関していえば、
翻訳した方の名前も、
もっともっと大きく
取り上げられるといいのに。

物語はとある小さな島が舞台で、
この島に住む人々は、
記憶を失っていきます。
単に忘れるだけなら
我々にもよくありますけど、
そうではなくて、
例えば、鳥の記憶がなくなれば、
鳥の存在自体、なかったことになり、
島からも鳥が消えていきます。

そうやってして、
これまでにフェリーとかラムネとか、
いろんなものの記憶が、
ある日突然消えていきました。

なかには記憶が消えない人もいるのですが、
そういう人たちは、
秘密警察が連行していきます。

主人公の女性は小説家なんですが、
「もしもこの先、いつか
『言葉』の記憶が
消されてしまったらどうしよう」と
考えています。
彼女の母親は記憶が消えない人だったため
まだ彼女が幼い頃に
連れ去られてしまいました。

ある日、彼女は一緒に仕事している
編集者の男性が、
記憶の消えない人間であることに気づき、
秘密警察から匿うため、
隠し部屋を作り、
そこに住まわせるのですが。

確かこんな話でした。
記憶が曖昧ですみません。

そこはかとない気味悪さを感じるのは、
記憶が消えていくことについて、
島の住民がみんな、
慣れてしまっているところなんですよね。
終盤には
「それが消えてしまったら
もうあかんやろ?」というものまで
消されていくのですが、
彼女たちはそのことを
いとも簡単に受け入れてしまいます。

異常な世界です。
それを異常であるという
私たちと同じ立ち位置に
編集者の男性がいまして、
でも物語のなかでは、
この男性のほうが異常になっちゃってる。

その当たり前が逆転する感じが、
すごく怖いんですけど、
現実世界における、
例えばブラック企業なんかの問題の根深さを
見させられた気がして、
それも気味悪さを感じる要因の
一つかもしれません。

こういう作品が
世界中で読まれてるって、
素晴らしいことですね。

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