京都フルーツ

さようなら安宅屋飯店。

さようなら安宅屋飯店。
大学生の頃から、
何度となく空腹を満たしてくれた
太子道の大衆中華料理屋さん、
「安宅屋飯店」が昨日、閉店した。

今日また、
開店するほうの「閉店」ではない。
次のない「閉店」だ。

つるっぱげで、
ゆでたまごみたいなご主人が作る
中華料理は どれもこれも、
適度に美しくなく、
過剰なまでのボリュームで、
びっくりするくらい安かった。

接客をするお母さんの愛想も
抜群によくて、言ってみれば、
あれも一種の調味料というか、
「おいしさの素」だったように思う。

学生の頃と卒業して間もなくの頃は
本当によく、お世話になった。
ゆでたまごご主人が、
帰り際に「サンキュー」って言うのが
とても楽しみで、
何度か食べに行くようになってからは
あの「サンキュー」を毎回、
期待していたように思う。

帰り際に「サンキュー」を聞いたら、
「サンキュー来た〜〜っ!!」
っていう感じ。

とはいえ、ここ最近は、
すっかりご無沙汰していて、
つい先日、本当に久しぶりに
安宅屋飯店を満喫したばかりで、
やっぱり安宅屋、
(だいたいいつもこうやって略してた)
最高やな!
近いうち、絶対行こう!!と、
安宅屋ラバーと
約束していたところだったのに。

幸い(不幸中の?とでも言うべきか)
閉店1日前、私は、
Facebookの投稿によって、
安宅屋が明日閉まるという、
情報を入手した。

え?ウソやん。
ウソやろ?

にわかに信じられない情報は、
なかなか心が受け入れないものです。
芸能人のスキャンダルでも、
政界のいざこざでも、
たいがいのことは
メディアの情報を鵜呑みにしがち。
なのにそれでも、
本当に自分が信じたくないことだけは
やっぱり自分で事実を
確かめたくなるものだ。

そういう意味では、
オレは まだまだ、政治やら経済やらを
自分のこととしては捉えておらず、
どこか他人事のように
生きているらしい。

しかし、安宅屋は違う。
安宅屋が閉まるなんてこと、
自分で確認せずにはいられなかった。
確認して「嘘」だという事実を
知りたかったというのもある。

しかし、現実は、
私の望み通りにはならなかった。

19時頃、安宅屋に到着すると、
すでにお店の看板は消灯していた。
ただし、入口の扉には、
「営業中」の札がかかっていたので、
「看板の電気を点け忘れた」のか、
「営業中の札を外し忘れた」のか、
私は前者に期待しつつ扉を開けた。

実際、外から見た感じでも、
明らかに何組かお客さんがいたので、
営業中ではあるのだろうとは
思いながら、扉を開けたのですが、
ゆでたまごご主人は、
「ごめん、今日はもう、
何も作れないわ。」と一言。

接客担当のお母さんが
奥から来てくれた。
「ごめんなさいね。
今日はもうお終いなんです。」

「今日は」が気になった。
一縷の望みを繋いでくれた気がした。
おもいきって聞いてみた。

「今日で店を閉めるって
聞いたものですから。」

するとお母さんは、
やや迷惑そうに答えてくれた。
「あれまぁ、どこから、
みんなそんなん、
知ってきはるんやろねえ。
そうなんです。
今日で終わりなんです」

口ぶりからは、
私以外にも閉店の報を聞き、
やってきた客の存在が伺えた。

迷惑ついでに聞いてみた。
「なんで閉めるんですか?」

「どうにもならんのです。
この建物自体を
潰すことになったので」

その一言で私の希望は
すべて無くなった。
何をどう、都合よく解釈しようと
してみても、抗い難い真実を
突きつけられ、閉店前の店に
入ることもできず、
私は空腹のまま、
安宅屋を後にした。
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