京都フルーツ

喫茶店のお話シリーズ ミュー。

喫茶店のお話シリーズ ミュー。
京都造形芸術大学の近くに
なんとも得体の知れない、
不気味な妖気を放つ喫茶店があり、
いままで何度となく
入店を試みたものの、
跳ね返されて入ることができずにいた
そのお店に、先日、
ついに入ることができました。

造芸大の特別講義で
ファッションの力で女性を解放した
ココ・シャネルや、
歌とパフォーマンスの力で
LGBTを解放した
レディー・ガガの話を聞き、
俺も俺なりに俺を解放しようと思い、
意を決して入店したのでした。

どうして入りにくかったかというと
まず、店内が見えないんです。
ガラス張りで中が見えるはず、
なんですが、
新聞の切り抜きやら
川柳のようなものが書かれた紙切れが
ビッシリと貼られていて、
中が全く見えないのです。

入ってみると、
黄色い半袖Tシャツに短パン、
短髪白髪の陽気なおじさんが
迎え入れてくれましたが、
中のとっ散らかりようときたら
これはもうすごかったですね。

ところが面白いもので、
外観のイメージそのままでも
ありましたので、
あまり驚きはなかったですが、
それでも、そうした雑然とした店内は
もう座る席が無いほどに満席で、
ただ、カウンター席は
席に本や雑誌や新聞紙やら、
ご主人の私物と思われるものが
置かれていて
空いていなかっただけなので、
それらを隣の座席と
カウンターのテーブルの上に寄せて、
イスの前のテーブルの上も、
「とりあえず」片付けて、
なんとかスペースを作ってもらい、
そのこじんまりとしたところに
陣取ることにしました。

アイスコーヒーを注文して、
出てきたアイスコーヒーを
飲む用のストローには
蜘蛛の糸が引いておりました。
伝票は紙の切れ端でした。

何もかもが規格外でしたが、
私は ここをとても気に入りました。
アイスコーヒーは美味しかったし、
テーブル席の客が注文した
チーズトーストの匂いは、
かつて嗅いだことのないくらいに
食欲を掻き立てられる、
パンを焼いた匂いなのでありました。

私は 自分自身が、
ついにこのお店に入ることを
許可されたのだと思いました。
このお店に入る資格を得たのだと。

汚いじじいが、
実は神様だった、というような、
お伽話はよくありますが、
まさにこのお店は
そういった類の神なのではないか、
と思わせるものがありましたが、
現実は ただひたすらに、
汚い喫茶店でしかありません。

しかし、
この喫茶店に認められたことは、
俺に根拠のない
自信を与えてくれました。

帰り際、ご主人に
「カッコいいシャツを着てるね」と
言われました。
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