お願いフルーツ「その他」

滋賀フルーツ 涌井慎の最終打席

滋賀フルーツ 涌井慎の最終打席
高校3年、最後の夏。
私は ベンチを温めていた。

滋賀県大会1回戦、
水口東高校との対戦は
7回表 水口東の攻撃が終了した時点で
9点差で負けていた。

7回裏、
虎姫高校の攻撃。
細かいルールは忘れたが、
ここで何点か点を返さないと、
コールド負けになってしまう。

なすすべなく2アウト。
あと1人。
虎姫高校の切り札として
代打で登場したのが、
何を隠そう俺だった。

代打 涌井がコールされると、
湖東スタジアムに観戦に来ていた
虎姫高校の生徒たちが、
一塁側から
割れんばかりの涌井コールを送る。

昂揚とは
こういうときに使うのだろう。

左の俊足打者として、水口東は
俺を相当警戒していたらしく、
そこまで快投を続けていた右投手を代え
左投手を俺に当ててきた。
彼は まだ1年生だ。

1年の夏からベンチ入りしている、
というだけで、
どの程度の実力かはわかるだろう。

振りかぶって第1球、
そのサウスポーが、
俺の胸元をえぐるかのような
ストレートを投げてきた。

勝負師の血が騒ぐ。
俺は 無心でバットを振った。

やはり、
実力以上のものが出るはずがない。
力なく一塁手の前に転がるボール。
余裕でアウトのタイミングだったから
俺はヘッドスライディングさえ
できなかった。

そんな情けない、
慎の最終打席を
BBCはノーカットで放映していた。
俺はVHSで永久保存版にしていた。

部屋の掃除で
また一つ、思い出が飛び出した。
TOP