お願いフルーツ「その他」

1人目の客になれた話

1人目の客になれた話
涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人目の客になることです。

この趣味のおかげで、
普段行かないエリアへと
行く機会が増えました。
目的があれば世界は広がるのです。

修学院駅を降りたのは
年末にアコシャンというバーで
ライブをして以来です。
何か用事がないと、
フラッと「そうだ修学院、行こう」
とはなりにくいのが修学院です。

しかし、
私は修学院駅近くにある
アーケードの商店街が好きです。
なんという商店街なのか、
わかりませんが、
全長200mもなさそうな、
小さな商店街の柱ごとに
かわいらしい猫の絵が描かれた
行燈が飾られています。

別に猫のことを
特別好きなわけではないですが、
猫のことを好きだと言っておけば
印象が良くなるらしいことは
知っています。

それはさておき、
猫の行燈が並んでいるから
好きなのではなく、
なんとなく、
気鋭のクリエイターとか、
商店街活性化請負人とか、
そういう人たちの手に
染められていない感じが好ましい。

もし、
染まっているのだとしたら、
そのクリエイターは素晴らしい。

目当てのパン屋さんは
12時オープン。
30分前に到着したら、
まだシャッターが半開きでした。
店内を動くサンダルが見えます。
私のスニーカーも
見えているかもしれないと思うと、
少し恥ずかしくなり、
お店から少し離れて
待機していました。

すると、
後ろに赤子を乗せたお母ちゃんが
やってきて、
シャッター内部を
のぞきこみました。
おそらく
地元のお母ちゃんでしょう。

私を一瞥したその目が、
「あなた、この辺で見ない顔ね。
そんなところで突っ立って、
何してるの、変な人」と
語っていたので、
とりあえず、
「何してるの」かは
わかりやすくしておこうと思い、
再び中からスニーカーの
見える場所へ帰ってきました。

あの余所者を見る視線も
地元の商店街!という
感じが出ていて好ましい。

しばらくすると、
またご近所のお姉さん
(私より二回りほどお姉さん)が
やってきました。
お姉さんは、
目の前に待つ私を見ずに
半開きのシャッターを
潜り抜け中に入っていきました。

声が聞こえます。
「今日なんやね〜、何時なんや?」
「12時です!」
「ほな、もう少しやね〜。
こないだもパン、おおきにね〜」

オープン前にご近所さんに
パンを振る舞って
いたのでしょうか。
ご近所対策はバッチリのようです。

とにかくさっきから、
たまらなくいい匂いが
内部から私を包み込んできます。

匂いにつられてやってきたのか、
最初から来るつもりだったのか、
後ろには子連れのお母ちゃんと、
私より年下と見えるお姉さんが
並んでいます。

藤子不二雄風のおじいちゃんが
やってきました。
この人もご近所さんだろう。
我々を一陣の風のように通り過ぎ、
シャッターを
潜り抜けていきましたが、
なかから店主らしき方の
「まだです、まだです、
まだです。」という声が
聞こえました。

この鳥打帽子め!
我々を無視して
シャッター半開きの店で
パンを買おうとしたんか!!

今度は逆側から
私より年下であろう別の姉さんが
やってきて、
子連れのお母さんに
「順番待ちですか」と微笑みながら
やってきました。

後ろを振り向いてみると、
おお、それなりの長さの
行列ができているじゃないか。
修学院に住む、
修学院ニスト達にとって、
待望の新規開店だったみたいです。

なんの縁もない私が
1人目の客になってすまんな。
令和2年1月22日、
修学院にオープンした
タナカパン製作所の
1人目の客は私です。


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