お願いフルーツ「その他」

短編小説『Facebook気狂い』

短編小説『Facebook気狂い』
『F男からB子へのメッセージ』

恥も外聞も捨てて
君にお願いしたいことがある。
facebookで私を
ブロックすることを
やめてくれやしないか。

毎日のように顔を合わせる君が
まさか私をブロックしているなど、
私の飛躍した妄想だろうと
私は日々、己を納得させるため、
あらゆる君の弁護に努めてみたが、
どう足掻いても答えはクロだ。
君は私をブロックしている。

しかし、
私はいまもなお、
君が自白するのが怖い。
自白してしまえば
もう弁護のしようがなく、
本来は被害者たる私がさらに
奈落の底へと突き落とされてしまう。

できれば自白はしてほしくない。
全てが私の作り上げた
虚構であってほしい。
そうやって
もう2年ほど経つだろうか。
なんとなく君が私を
ブロックしているのではないか、
という予感がしたのは
もう少し前だったはずだが、
一度私は君を
試してみたことがあった。
君がその時既に
私をブロックしていたなら、
君は試されていたことさえ、
知らずにいるのだろう。

私が君を試したのは、
「大桃李も閉まったからね」と
話しかけたときだ。
大桃李は君と2人で学生時代に
よく食べにいった中華料理のお店だ。
久しぶりに行きたいね、なんてことを
話していたところだったので、
君は寝耳に水というような顔で
驚いたものだが、
私はその一週間ほど前に
「大桃李閉まる」の一報を
facebookにアップしていたんだ。

いま思えば、あの時、
「あれ?こないだfacebookに
アップしたけど見てなかったかい?」
と返しておけば、
君も自身の失策に気付いたのだろうが
あの時、私にはそれを
確認する勇気さえなかったのだ。

facebookは仮に
ブロックしていなくとも、
反応をしないでいれば
その人の投稿はタイムラインに
上がらなくなるものだが、
それでも私は毎日一度は必ず何か、
アップしているんだから、
君が私の投稿に全く気づかないのは
ブロックしているからだ。

これが全てなんだ。
それなのに、それだのに。
私はその事実を、厳格なる事実を、
なんとかしてねじ曲げたいがため、
君を弁護し続けた。

大桃李の一件以来、
私は君に私がfacebookに投稿した
出来事については
いっさい話すことをしなくなった。
投稿を見ておれば、
知っているはずのことを
君が知らないのが、
ただただ怖かったんだ。
それは震えるほどに怖かった。
毎日、命綱を失くし、
両手を広げて平衡感覚を保ちながら
縄を渡っているようであった。

時折、君と一緒にいるときに、
別の、例えばT子さんや
W山さんが私のfacebookの投稿を
話題にすることがあった。
そんなとき、君は決まって
会話に入らないようにした。
聞こえないふりをした。

我関せずを決め込みながら、
私をブロックしていることが
私にバレないようにと、
とにかく風が止むのを
待つようにしていた。

そういう時にも、
私はいくらか、
T子さんやW山さんに対して
「私のような者の投稿を
ご覧いただけているだけで
ありがたいことです」と、
君を当てこすってやろうかとも
思ったけど、やはり、
そんなことさえもできなかった。

君を弁護するうえで、
一つ有力な証拠に
なるかもしれないことがあり、
それは君がもう、facebookを
見ていないのではないか、
ということだ。
もしも、そのことを証明できれば、
私は長らくどんよりと
曇り続けていた心の中に
久々に陽を差すことができる。

しかし、
共通の知り合いの投稿への
君からの「いいね」の
多いことときたら、
これだけ私が弁護に
躍起になっているというのに、
どうしてまた、そのように
容易く私の期待を裏切るのか、と
「いいね」を見るたびに、
激しい憤りを感じたものだ。

それなのに、それだのに、
君は私の憤りなど知る由もなく、
毎日のように私と顔を合わせ、
何事もないかのごとく、
私と会話をするのだ。

何事もないかのごとく、だ。
この君の態度がまた、
君を弁護する
一つの大きな材料ともなった。
これほどまでに
何事もなく毎日私と会話する君が
果たして本当に私を
ブロックしているだろうか。
私の被害妄想であると片付けるのが
自然なのではないか。

ある時などは私に対して、
「facebookって見て気分を
害されることを書いている人も
いるよね」などと
同意を求めてきたものだから、
「そうだね」と返したのだが、
あれも今思えば、
「それは私のことかい?」と
返してみれば、
真実に近づけたかもしれない。

元を辿れば、
一度私は君に対して、
大変腹立たしく感じたことがあり、
そのことをfacebookに
投稿したんだ。
あの投稿が君に私を
ブロックさせたんじゃないかと
思ってる。
そうだとしたら君の言う、
気分を害する投稿をする人とは
他ならぬ私だろう。

あの投稿によって
君が私をブロックしたのであれば
とにかく君に謝罪がしたい。
しかしあれからもう2年が経つ。
すっかり機は枯れ果ててしまった。

君とは長い付き合いだ。
私のこともよく知っているはずだ。
君はきっと、
私のことを嫌いになりたくない。
しかしfacebookの投稿を読むと
嫌悪が先に出てしまうから、
そうならないようにブロックした。
そういう物語を考えてみた。

このように私は彼此、
少なくとも2年は
君が私のfacebookを
ブロックしているか否かについて、
毎日のようにああでもない、
こうでもないと考え続け、
もし君が本当に私を
ブロックしているのなら、
どうして君は常日頃、
私と何事もないかのように
会話ができるのだと
君を不信するどころか、
人間というもの全般を
信じられなくなりそうなのに、
君はどうしてそう、
奔放でいられるのだ。

私は君の思いを、
真実を知りたい。
真実を知ることは怖い。
怖いけど、
もう私の気持ちを納得させるには
君に真実を聞くほかないんだ。
どうか私に真実を
教えてはくれまいか。

『B子からF男へのメッセージ』

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