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1人目に投票所へ入れなかった話

1人目に投票所へ入れなかった話
涌井慎です。
趣味はオープンしたお店の
1人めの客になることです。

これを趣味にすると言ったとき
「選挙も1人めを
狙ったらどうですか?」と
言った友人がおりました。

その友人が
これを見ることはないのですが、
そのときに、
なんて素敵な発想を
僕に伝えてくれたのか、と
感激したことを記しておきたい。

今日は京都市長選挙です。
7時からなので、
6時30分に行けばよかろうと、
考えておりました。
我が家から投票所の中学校へは
歩いて3分もかかりません。

聞くところによると、
1人目の投票者は
投票箱の中に何もないか、
確認する任務があるらしい。
そんなことまで、
あと30分後に私は体験できるのか。

投票が7時から、ということは
中学校の校門前で
待つことになるのだろうか。
寝ぼけた頭で
そんなことを考えていると、
もう校門前に辿り着きました。

自転車が無造作に停まっています。
これは先を越されたのか。
見ると校門は少しだけ、
もう開門していました。

正面の校舎を回り込んで、
中庭のような運動場の奥に
投票所の体育館はあります。
日が昇る前なので、
館内の照明がやけに明るい。
暖冬と言われているが寒い。

投票所の入口も
少し開いていました。
中では15人ほどが準備をしています。
まさか、この中には
1人めを狙う者は
紛れ込んでいないだろう。

「おはようございます」

私に気付いたお兄さんが
挨拶をしてくれました。

「7時からなので、
もう少しお待ちいただけますか」

「ここで待てばいいですか」
私は入口で待つつもりでした。

「そうですね。
先にお越しの方があちらに
おられますので、
順番にお願いします」

先にお越しの方!?

「あちら」を向くと、
全く気配を消しながら、
おじいちゃんが屈伸しておりました。
おじいちゃんと目が合う。

意志や、
この目には意志がある。
わしが1人目や、
投票箱の中を確かめるのは
わしなんや、
という意志がある。
校門前の自転車は
あんたのやつやったんか。

負けた。
私にはそこまでの意志はない。
しかしそもそも、
選挙はそういう勝ち負けではない。
今日は京都市長選挙の日。
みんなで選挙に行きましょう。

と、
締め括るつもりでおりましたが、
2人目に中に入り、
おじいちゃんよりも、
スムーズに手続きを終えた私は、
おじいちゃんよりも先に
投票することになりました。

「1人目ですので、
投票箱の中に何も入っていないこと、
確認していただいて、
こちらに住所と
お名前をお願いします」

投票箱の中は
何も入っていませんでした。
渡された紙には
「この選挙区において、
最初に投票したのは私であり、
そのために私は
投票箱の中に何も入っていないことを
確認しました」
というようなことが
書いておりました。

おじいちゃん、
これをしたかったのだとしたら、
ごめんよ。
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