明日を生きるヒントに。岩橋3選

「森に置き去りにされた時に聴きたい、スティーブ・ライヒ3選」

「森に置き去りにされた時に聴きたい、スティーブ・ライヒ3選」
……。うう……。
ここは……?
森……?


どうしてこんな所に……?


まさか……置き去りにされたんだろうか。
ハァハァ……
誰か……誰か助けてください!!


誰かー!助けてくださーい!!!


おーい!!!






森に置き去りにされてしまった




そんな経験はありませんか? とても恐ろしいですよね。


森や自然は私たちに様々な恩恵を与えてくれます。食べ物や衣服などの生活道具、仕事やレジャー。日本の文化は森と共に発展してきたと言っても過言ではありません。
一方で、山は時に厳しく、冷酷に人間に対して牙をむける存在でもあります。
その厳しさの前には人間など無力なもの。自然を甘く見ると大変な目に合う事になるでしょう。


森に置き去りにされてしまった時、無事に生還する為にはどうすればよいのでしょうか。
一番大切なことは、どんな時も冷静な自分で居続ける事です。


そこで、今回は森に置き去りにされてしまった時に聴きたいスティーブ・ライヒの作品3選をピックアップしてみました。
ある日突然舞い降りるかもしれない、死と隣り合わせの恐怖に備えるべくご査収ください。


そもそもスティーブ・ライヒとは




スティーブ・ライヒは1936年生まれのアメリカ人の作曲家。「シンプルな一定の音型を反復させる」現代音楽のひとつである ミニマル・ミュージックの大家として知られています。ミニマル・ミュージックは、他はテリー・ライリーなどが有名ですね。テリー・ライリーの「in C」は電車で聴くとよく寝れますのでオススメです。


ミニマル・ミュージックは現代の様々なジャンルの音楽に影響を与えており、坂本龍一や久石譲など日本で有名な作曲家もミニマル・ミュージックの影響下にある作品を発表するなどしています。


2006年には第18回高松宮殿下記念世界文化賞の音楽部門を受賞した事で日本のニュースでも話題になりました。「スティーブ・ライヒってこんな普通のおっさんなのね」と思った記憶がございます。


今回は、そんなスティーブ・ライヒの作品を、森に置き去りにされた時に実践したいポイントと共に紹介していきたいと思います。




やみくもに行動しない

人間焦って行動をするとロクな事になりません。
置き去りにされた場所が山だった場合「山を下っていけばなんとかなるだろう」「川沿いを下って行けば海に出るか、人里に出るだろう」というのは典型的な思い違いです。
途中で滝になっていれば道を進む事はできませんし、冷気は下に溜まるので体力を消耗する事になります。


捜索願いが出ている可能性がある場合はその場を動かず、じっとしておく必要があります。
山の場合は逆に尾根に向かって上がって行くと携帯電話の電波が通じる場合もありますので、山を上がるようにしましょう。


自分の感覚で動くのではなく、常に行動の前に落ち着いて考える事が大切です。


① Piano phase (1967年)






「Piano phase」は1967年に作曲された2台のピアノを使用する初期の代表的作品です。
2台のテーププレーヤーで同じ録音を同時に流した時にプレーヤーの個体差などでわずかに発生する位相の「ズレ」は、やがて増幅しまた違う別の模様に展開していきます。この事に着想を得た「フェイズ・シフト」という技法を元に作曲されています。


2人のピアニストが12音からなる音列(E4 F♯4 B4 C♯5 D5 F♯4 E4 C♯5 B4 F♯4 D5 C♯5)を同時に弾き始め、第2奏者が少しテンポを上げたり戻したりを調整しながら少しずつズラしていくことでメロディーが変容していく、というもの。最終的には完全なユニゾンに戻り終了します。


森で1人になってしまった時、まずは落ち着いて自分自身と対話の時間を持ってみましょう。


生き残る為にはどうしたらいいのか。
ここに留まるべきか。移動するべきか。
移動する場合はどこへ向かうのか。
まずは水を確保するべきなのか。
食べ物はどうするのか。野生の物を食べて大丈夫か。
そもそもどうしてこんな事になったのか。
皆に嫌われていたから置き去りにされたのではないのか。


とりとめも無く現れては消える考え・疑念・不安・打開策の数々。
そういったものに惑わされて衝動で行動に出ては行けません。2台のピアノがやがて完全に同調するように、自分の感情と思考を調和させる事が大切です。


水源を探そう

人間にとってなくてはならないもの、それが水。
森に1日以上いなければいけない場合はきれいな水源を探す必要があります。


とはいえ、場所によっては水を探すのは容易な事ではありません。
雪山などの場合、雪溶け水は温度が冷た過ぎる為、安易に口にすると下痢になったり体温を奪われてしまいます。


小川などの水は標高が高ければきれいな場合がほとんどですので、山野場合は尾根を目指して移動するのが良いでしょう。
小鳥などが多い場所は水源が近いと思われますので、参考にしましょう。


濁った川や池しかない場合でも近くを掘る事である程度きれいな水が湧いて来る場合があります。複数人いる場合はトライしてみましょう。


水を探し確保するには知恵と集中力が必要です。
自分自身の感覚を研ぎすまし、水源を探し当てる事。それが何よりも重要となってきます。




② Clapping music (1972年)






「クラッピング・ミュージック」はタイトルの通り、手拍子のみで構成された作品です。本来は2人で演奏するものですが、動画では5人で演奏されています。(キャップのおじさんがスティーブ・ライヒ)「Piano phase」同様フェイズ・シフトを基調とした楽曲構成でAとBが同じリズムを手拍子で刻みながら、Bが8分音符を1つずつずらしていく事で展開していきます。めちゃ難しそうですね。


一見、複雑そうに見えるものの中にも、規則性やルールがあります。それは自然の中でも同じ事。
山々の連なりの中に、動物の鳴き声に、樹木の模様の中に、自己相似性を宿しているのが世界なのです。
森は煩雑でただ無闇に広がっているように見えますが、その中にも規則性とルールがあるという事に気がつく事で、水源を探し当てたり水を確保できる事に近づけるのではないでしょうか。
自然と、世界と一つになることで自分の進むべき方向が見えてくるでしょう。


ちなみに、「クラッピング・ミュージック」をテーマにした『Steve Reich’s Clapping Music - Improve Your Rhythm』 というiphone / iPad用アプリが出ています。興味のある方やリズム感を鍛え直したい、という方にはおすすめですが、くれぐれも森で置き去りにされている最中は控えるようにしてください。







寝る場所を確保する

長期戦が予想される場合は、寝る場所を見つけます。
直射日光が避けられるような場所を見つけて、気温の下がる夜に備え木の枝や葉っぱなどを集めておきましょう。
捜索者が見つけやすく、かつ危険な動物が入ってきにくい場所、というのがベストです。理想の場所を探し出すのは難しいかもしれませんが、頑張りましょう。


③ New york Counterpoint (1974-76年)






「New york counterpoint」は1984年に作曲された「クラリネット11本とバスクラリネット」の為の作品です。急→緩→急の3楽章から構成されています。同じ楽器が多層的に演奏する事で一つの波を作りながら、大きなパターンを作る1楽章から、メロディアスで、穏やかな雰囲気の2楽章を経て、リズムが強い第3楽章へと止まることなく展開していきます。


森の夜は早く、そして長いものです。
孤独、不安と戦いながら、体力を回復するべく休まなければなりません。
また、常に野生動物の襲来にも警戒せねばなりません。


とても不安で長い夜。そんな夜を「New york counterpoint」は慰めてくれるかもしれません。
重層的なクラリネットのエレクトロニカ的な音像は活気溢れるニューヨークの町並みをイメージしているらしく「俺は文明人なんだ」という事を思い出させてくれます。


また第2楽章のトリッキーながらも穏やかな印象は、少なからず安らぎを与えてくれるものです。
また明日から始まる、一寸先もわからぬサバイバルな1日に向けて少しでも体力を回復する為の糧となってくれるかもしれません。




最後に

いかがでしたか?


森に置き去りにされるかもしれない危険。
日常に潜む、しかし誰の身にもいつ起こるともしれない恐怖。


自然はいつだって冷酷で無慈悲ですが、スティーブ・ライヒのミニマルミュージックの中には自然に抗うのではなく、自然と調和し、その中で生き抜くヒントが隠されているような気がします。


それではまた次回。
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